「担架二選手、全7試合の熱闘」(5.15 後楽園ホール) |
協栄ジム主催 「第333回ガッツファイティング」
今回は、戦意に欠けたタイ人選手は一人もいない。
日本人選手のみの興行。
試合数は全7試合。 18時から21時半まで約3時間半。
自分なりの夢(野望)をかなえるためには、目の前の相手を殴り倒すしかない・・・
そんな思いで、リングに上がり、グローブを握った日本人選手同士の真っ向からの激突に、ホールは白熱した。
その激しさを物語るかのように、流血の負傷判定に持ち込まれたのが計2試合。
また、試合終了後、担架で運ばれたボクサーが2選手。
うち一人はなんと、勝者。第3試合を戦った協栄ジム佐藤洋太選手。
判定勝利を決めたものの、コーナーの椅子から自力で立ち上がることができず、担架に身を預けた。
勝者が担架で運ばれたケースを見るのは初めてだ。
もう一人は、花形ジムの長岡選手。2004年新人王、スーパーフェザー級7位、協栄ジムの松崎選手の一撃で、キャンバスに崩れ、やはり、担架で運ばれた。
この長岡選手と松崎選手が拳を合わせた第6試合と、その前の第5試合は、「日本ランカー」と、「ノーランカー」の対戦。
その地位を奪い、とってかわろうとする「ノーランカー」のぎらぎらした野心と、夢に近づくため、決して、負けられない「日本ランカー」の意地が、正面から激突した。
そして、メインイベントは、「世界ランカー」と「日本ランカー」の対決。
WBAフライ級世界タイトルマッチ、ロレンソパーラ戦の敗北を乗り越えて、世界再挑戦に向けて、一戦も負ける事が許されない世界ランカー(WBA3位、WBC10位)協栄ジムの坂田選手
対するは、日本ランキング1位だったロッキージムの高橋巧選手を破って、日本ランカー入りを果たした笹崎ジムの吉田選手。
戦前の予想は、もちろん、現役世界ランカーの坂田優位。
もしも、吉田が坂田を破る番狂わせを実現すれば、坂田は、パーラ戦後、積み上げてきた一切を失う。
対照的に、吉田は、世界ランク入りを果たし、「世界王者」への挑戦権を手中にできる。
「次に自分の踏み台になってもらうのは坂田だ」 「ここで吉田に負けるわけにはいかない」
両者の思いは交錯し、激しい攻防は沸点に・・・・・・
第1試合 バンタム級4回戦 ○古川高広(3-0判定)栗原克典●
協栄ジムの古川が、ワタナベジムの栗原(3敗)に3-0の判定勝利(40-37、40-37
40-36)し、デビュー戦を白星で飾った。
古川は手数に勝り、3回からは右アッパーも使って、栗原をリード。
栗原は、ガードを固めて、左フックを合わせようとするが、「受け」に回りすぎ。
手数と追い足に乏しく、手数を切らさず、さらに、足を使って、出入りのボクシングを行う古川によいところなく完敗。
「必ず、チャンピオンになるのでぼくの名前を覚えて帰ってください」
パンフレットに載っていた古河選手のメッセージ
第2試合 51.5キロ契約4回戦 ○白井一彰(3-0負傷判定)戸瀬寛紀●
渡嘉敷ジムの白井(2勝1KO1敗1分)が、緑ジムの戸瀬(2勝1KO1敗1分)を、3-0の負傷判定で下した。ジャッジ3名はすべて30-28で白井を支持。
離れた距離からのワンツー、接近してのアッパーが光り、戸瀬をよせつけなかった。
3回1分55秒、偶然のバッティングで、白井が目の上を切り、負傷判定に。
第3試合 スーパーフライ級6回戦 ○佐藤洋太(3-0判定)殿村雅史●
協栄ジムの佐藤洋太(7勝4KO2敗)が、FIジムのサウスポー殿村(7勝3KO2敗)を3-0の判定で下した。
佐藤は3回から、試合をリード。4回には疲れの見える殿村に連打をまとめる。
左フックに、右アッパーのフォロー。
さらに中間距離での右ストレートもさえる佐藤。
ところが最終6回。ガードが下がった佐藤のアゴに殿村の左フックが、完璧に炸裂。
ふらつきながらも、クリンチで逃れ、なんとかゴングまで逃げ切った。
判定は58-56、58-56、59-56、3-0で、佐藤の勝利(私の採点は58-56で佐藤)
ところが、ここで異変が・・・・
コーナーで、椅子に座った佐藤。意識はあるものの、ダメージからまったく動けず。
椅子から立つことも、自力ではできない。
急遽、担架が用意され、医務室に運ばれた。
ボクシングの激しさ、を改めて思い知らされた光景。
選手は、本当に命を賭けて、戦っているのだ。
最終6回、限界ぎりぎりまで、殿村選手の猛攻に耐え抜いた佐藤選手の精神力にも敬服
幸い、16日現在、佐藤選手に大きな怪我はなかった模様。
「古川クンより先にチャンピオンになるので僕の方を覚えて帰ってください。
みちのく魂、見せます!」
パンフに載っていた佐藤選手のメッセージ。
第4試合 バンタム級8回戦 ○今西秀樹(3-0判定)中辻啓勝●
ワタナベジムの今西(9勝3KO3敗1分)が、協栄ジム無敗のホープ中辻(4勝1KO)に3-0の
判定勝ち。
中辻は、アマ戦績54戦42勝12敗を誇る右ボクサーファイター
1回、グローブタッチとみせかけて、右を強振するなど、はじめから、相手を飲んでかかる勝負度胸。
1回から5回までは、中辻がアマチュア出身らしく、手数を切らさず、先手を取り続け、優勢に。
今西は、手数は少ないが、ガードを固め、カウンターの左フックを狙う。また、中辻のパンチが入っているはずなのに、ダメージも疲れも、外からは見えない。打たれ強い。
6回、やや中辻に、攻め疲れが見え、手数、プレスが弱まるや、今西は反撃に。
続く7回、8回は、頭をつけて、足を止めての打ち合いとなり、今西のペース。
最終8回、2分過ぎには、今西の強烈な左フックがクリーンヒット。
判定結果は、3人のジャッジすべて、今西を支持。
ポイントは、78-77、77-75、78-74。
アマチュア出身のきれいなボクシングをする中辻が、プロの試合経験と「タフネス」に勝る今西に、体力負けしてしまった、という展開。
ちなみに、私の採点では77-76で中辻の勝ち。6回から8回は今西だが、2回から5回までの4ラウンドは中辻がとっていたと判断。1回は10-10とした。
中辻は興行の主催者、協栄ジム所属の将来性ある全勝ボクサー。
このジャッジの判定は、協栄ジムにとって、あまりにも「辛口」
第5試合 フライ級8回戦 ○山口真吾(3-0判定)山口伸一●
世界王座挑戦の経験もある元OPBFライトフライ級王者、現日本ライトフライ級5位、渡嘉敷ジムの山口真吾(17勝7KO4敗2分)と、「ノーランカー」FIジムの山口伸一(8勝2KO1敗2分)
の対戦。
1回、いきなり波乱。
2分30秒過ぎ、上体をやわらかく動かして、余裕タップリのムーブを見せる真吾選手に、伸一選手の左フック一閃。
まともに、アゴにもらった山口真吾はダウン。
立ち上がった真吾に襲い掛かる山口伸一。
ゴングに救われるが、コーナーに返る山口真吾を、伸一は、にらみつける。
「お前に取って代わるのは俺だ、くたばれ」
そんな言葉が聞こえてきそうな闘志あふれる表情。
2回 山口真吾は、ガードをしっかり上げる。
伸一の左に合わせて、右クロスを狙う山口真吾。空振りするも、迫力十分。
狙いすぎか、山口伸一は、手数に乏しい。
ラウンド後半、山口真吾の右クロスがヒット。
この回はやや山口真吾が盛り返す。
3回 ダウンの再現を狙ってか、山口伸一は左フックを強振。
ただし、単発気味で、命中せず。
山口真吾はたびたび見せる右のクロスを振るうがこれも当たらない。
後半、距離を詰めて、接近戦に。
4回 左フックのみに頼らず、右の攻撃も織り込んでくる山口伸一
この回は、手数に勝る山口伸一
前半4回が終わったところで、ダウンが響き、私の採点では2ポイント差で伸一選手が優位
ところが、ここから、世界戦経験もあるベテランの真吾選手が盛り返す。
ここで、ノーランカーの伸一選手に敗れれば、「世界再挑戦」の夢は水の泡だ。
5回2分過ぎ 狙っていた真吾選手の右のクロスがヒット
6回 接近戦に持ち込む山口真吾 2分30秒過ぎ 離れ際、右クロス、2発ヒット
この時点で私の採点では互角に。
7回 距離を詰める山口真吾 ロープに押し込み連打。
この回は、明らかに、山口真吾優勢
そして、最終8回ラスト1分
山口真吾のオーバーハンドの右が決まる。
バランスを崩した伸一選手のグローブがキャンバスに。
スリップ気味にもみえたが、判定はダウン
ここにきてのこのダウンは決定的。
1回にダウンを奪い、ほぼ勝利を手中にしていた伸一選手
泣きそうな表情、顔は真っ赤だ。
ダメージの薄いスリップ気味のダウンだけに悔しさもひとしおだろう。
残り50秒、もう、いくしかない
なにかを叫びながら、拳をふるって、前に出る伸一選手
受けて立つ真吾選手
両者、壮烈な打ち合いの中、試合終了のゴングが鳴った。
判定は3-0で山口真吾の勝利
ポイントは、77-74 78-74 78-73
78をつけたジャッジはダウンを奪った1回以外、山口伸一がとったラウンドはなかったと判断していたことになる。
第6試合 60キロ契約10回戦 ○松崎博保(8回KO)長岡知治●
2004年新人王、日本スーパーフェザー級7位、協栄ジムの松崎(12勝6KO1敗)が、花形ジムの長岡〔8勝4KO2敗1分)から8回、左フックでKO勝ち。
長岡は、バックダンサーを後ろに従えつつ、ダンスをしながら入場。
「イケメン」で、華がある右ボクサーファイター
松崎はデビュー戦敗戦後、負け無しの12連勝中。現在、スーパーフェザー級7位。
今年中の日本タイトルマッチ実現を目指す松崎にとって、ここでつまずいているわけにはいかない。
1回、いきなり、松崎が長岡からダウンを奪う。
バックステップからの左フック、カウンター
試合は松崎ペース。
伸びのある左ジャブ、バランスのとれたフットワーク、ボディワーク。
パンチも重く、かなり効きそうだ。
ハンドスピードはそう、感じないが、一発、一発を、しっかりと打ち込んでいる印象。
当て際に、しっかり拳を握っている、いわゆる「スナップ」の利いたパンチに見える。
8回、松崎の左フックが、再度、炸裂
キャンバスに沈んだ長岡は全く動けず。
担架に担がれての退場となった。
今日、二人目・・・・・・・・・・・・
第7試合 フライ級10回戦 ○坂田健史(負傷判定2-1)吉田健司●
WBC10位、WBA3位、世界ランカー、協栄ジムの坂田(26勝12KO3敗1分)が、日本フライ級5位、笹崎ジムの吉田(9勝5KO5敗)を2-1の負傷判定で下した。
吉田は、日本フライ級1位だったロッキージムの看板選手、高橋巧を下して、ランク入りした右ファイター。
抜群の身体能力を生かした鋭い力感溢れるステップインからの連打、が持ち味。
3月15日に行われたトクホン真闘主催興行。
吉田は金子ジムの日本ランカー、清水と対戦。 3-0の判定で敗れている。
(この模様は「ナマ観戦記」にアップしています)
振りが大きいパンチを清水に見切られ、後半、スタミナが落ちたところを打たれて、敗北、という内容。
また、ステップインの勢いが激しく、バッテイングになりやすく、7回には目の上を切って、流血している。
吉田の入場曲は、孫悟空をモチーフとした「モンキーマジック」
コールされるや、バック転をしてみせる。
1回 両者、探りあい。強引な攻めが特徴の吉田が清水戦に比べて、慎重な出だし。
2回 吉田のプレスを、さばく坂田。しかし、ラスト30秒、吉田の外からのパンチ、中間距離からの右ストレートが坂田に決まる。
バッテイングで、吉田、左目じりをカット
3回 坂田は離れた距離からは右アッパー、右ストレート。前進する吉田に、後ろに下がらずクリンチして、距離をつぶして、左のボディを入れる。
「出入り」の妙を生かした頭脳的なボクシング。
手数では吉田だが、有効打、ペース支配では坂田のラウンド
4回 攻められている印象を少なくするべきと考えたのか、坂田は、クリンチを少なくして、吉田のプレスにフットワークで対応。
吉田は2回の負傷の影響か、体のキレが落ちていて、坂田の足にさばかれてしまう展開
ジャブで距離をはかり、吉田の前進に合わせて、左右のボデイーアッパー、あるいは左フックを合わせ、ヒットを確認するや、素早くバックステップして、吉田の反撃をすかしてみせる。
「打っては離れ 離れては打つ」ボクシング
5回 疲れが見え、動きの落ちてきた吉田はペースを取り返そうと圧力を強める。
坂田はクリンチと、出入りのボクシングでさばき、後半、吉田のボディを攻める
6回 一転して、今度は坂田がプレスを強めて、前に出る。吉田が押し返すや、坂田は無理に攻めずに、足を使ってさばく。
吉田のバッテイングの傷が深く、ドクターストップ、負傷判定に。
採点は、2-1で坂田の勝利
一人のジャッジは59-58で吉田を支持。
あと二人は59-57、60-55で坂田を支持。
吉田の勝ちと判断したジャッジがいたことは意外
吉田は「勝ったのは俺だ」とさけび、四方の観客に両手を上げて勝利をアピール
さらに、バック転をしてみせる。
ただ、これは、前の清水戦でも行われたもの。
吉田本人は不満なのかもしれないが、清水戦と同様、ジャッジの判定は妥当だと思う。
ちなみに、私の判定は59-57で坂田
2回を吉田が取り、3,4,5回を坂田が取った。
1回、6回は坂田優位ながらあえて、10-10とした。
マストシステムの判定なら、坂田に振ったところ。
坂田は、吉田のパフォーマンスに憮然とした表情
「情けない試合をしたが、世界チャンピオンに向けてがんばります」
と、インタビューに答えて、アピールした。
第333回ガッツファイティング・・・・・・・・・
試合内容は、張り詰めた緊迫感に満ち、ボクシングの恐ろしさ、そこで戦うボクサー達の「凄さ」をあらためて痛感させられ、中身の濃い興行だった。
ただ、気になった事は、ジャッジが一貫して、主催者側の協栄ジムに冷たかったこと。
ジャッジは主催者サイドに「甘め」に下されるのが通例だけに、ちょっと不可解。
いろいろとやっかみを買っている部分もある、ということなのでしょうか?
(もちろん、これは冗談ですからね。)
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