ツインズ(双子)新人王 杉田兄弟の激闘 拳志会 6.14ホール |
メインには、WBCライト級7位 嶋田雄大(ヨネクラジム)
アンダーカードに、ヨネクラジムの最強ツインズ(双子)
2005年度兄弟同時新人王杉田兄弟
「亀田兄弟」と同じく、夢は大きく、兄弟そろって、世界チャンピオン
しかし、この日のマッチメイク
「亀田兄弟」と異なり、「杉田兄弟」の相手は、日本人選手
兄の純一郎には、帝拳ジムの室橋守 23歳
弟の祐次郎には、JBスポーツジムの久保田智人 27歳
室橋 7戦5勝1敗1分 久保田 17戦10勝6敗1分
練習の苦しみに克ち、減量の渇きに耐え、リングに上がり
対戦相手と、拳で殴り合い、魂をぶつけ合い、あるいは、勝ち、あるいは負けて
自らの血と汗を代償に 立派な戦績を刻んできた。
特に久保田は、2001年3月デビュー 17戦のキャリア
2003年12月デビュー、10戦のキャリアの祐次郎を、修羅場をくぐりぬけた数では上回る
注目の杉田兄弟は、対戦するボクサーにとって、「おいしい」相手だ
勝てば、自分の存在を広くアピールできる。
また、純一郎は、ランク外だが、祐次郎は日本スーパーバンタム級10位のランカー
その地位を奪い、自らがランカーに上り詰めるまたとないチャンス
「お前を食って、俺がのしあがる」
ノーランカーの二人のボクサーの内なる思い。
そして、いきなりの波乱が・・・・・
弟、祐次郎の試合に先立って行われた兄、純一郎対室橋守の6回戦、その第2ラウンド
これまで、試合のペースをつかみ、快調に飛ばしていた純一郎の「隙(すき}を突いて
室橋の左フックが炸裂
突っ伏すように、頭からキャンバスに倒れ込む純一郎
兄弟同時新人王に輝いた杉田兄弟の約半年振りの戦い
祝いの場であるべき復帰戦のリングで
キャリア初のダウンという屈辱
初のノックアウト負けの予感
凍りつくヨネクラジム陣営、会場に詰め掛けた杉田兄弟応援団
実力のみがモノをいうこのリング
「世界チャンピオン」という杉田兄弟の思いと夢は、ここに潰えてしまうのか。
この日の興行は全9試合
杉田兄弟の試合は、兄、純一郎が6試合目 弟、祐次郎がセミファイナルの8試合目
第1試合 フライ級4回戦 ○和泉孝史(1回1分7秒KO)落合賢●
横田スポーツジムの和泉(1勝2敗1分)が、花形ジムの落合(1勝1KO1敗)から1回1分7秒
右ストレートで、KO勝ち。
第2試合 スーパーウエルター級4回戦 ○斎藤泰広(3-0判定)清水直人●
ワタナベジムの斎藤(3勝1KO3敗)が、伴流ジムの清水(1勝1KO)に3-0の判定勝ち。
合気道の動きを、ボクシングにとりいれる伴流ジム独特の、変則的なボクシングの清水。
姿勢を低く、腰を落として、カエル飛びに入るかのような
ポーズをとったかと思うと、急に、頭から、突っ込んで、
右の思い切ったスイング気味のフックを振るう。
やりにくそうな斎藤だったが、冷静に、清水の動きを見て
特に、大振りのパンチを見切り、的確によける。
3回以降、清水のボディに狙いをしぼって、パンチをまとめ、3-0の判定勝ち。
(39-38 39-38 40-37)
清水はパンチが大振り、単発で、手数に欠けた。
第3試合 ライト級4回戦 ○小林和優(2-1判定)田川智久●
不二ジムの小林(2勝2KO)が、花形ジムの田川(1勝3敗1分)を2-1の判定で下す。
小林は地味で、動きもぎこちない印象ながら、パンチがある。
やや、オープンブロー気味になってしまうこともあるが、手数も切れない。
田川は1回から、狙いすぎなのか、動きが固く、手が出ない。
相手のパンチをしっかりと見ていない印象も。
スタミナの消耗もあったのかもしれないが、特に後半、自分が打ったあと、目を相手から
そらしてしまうクセが目に付いた。
打ち終わりを、小林に狙われ、3回までは、小林のペース。
最終4回、田川は、意を決したか、思い切って、前に出て、両者、足を止めての打ち合い
4回は田川の接近戦で、押し気味だった田川のラウンド
判定は、一人のジャッジが39-38で田川につけたが、残り二人がともに、39-38で小林
2-1で、小林の判定勝利に
ここから、東日本新人王トーナメント予選が2試合
第4試合 東日本新人王予選Sフェザー級4回戦 ○篠崎賢生王(3-0判定)守田直樹●
ヨネクラジムの篠崎(2勝1敗)が、大橋ジムの守田(2勝1KO)に3-0の判定勝ち
篠崎は、左を突き続け、しっかりと距離をとって、右を打ち込む基本に忠実なボクシング
特に、右のカウンターのタイミングがよかった。
3回、守田は打ち合いに出て、篠崎と足を止めて、頭をつけあってのインファイト
この回はやや守田が優勢だったが、最終4回は、打ち疲れから、スタミナ失速
3-0(39-38 39-38 39-37)の判定で、篠崎が勝った。
第5試合 東日本新人王予選ミニマム級4回戦 ○福村和仁(3-0判定)澤田純一●
大橋ジムの福村(2勝)が、新松戸高橋ジムの澤田(1勝1KO)に3-0の判定勝ち
澤田は、福村より、体格が小さいサウスポー
常に右に回りこみ、右フック、左ストレートを打ち込む。
ただし、左のストレートの伸び、威力はイマイチ
また、左を打つときに、アゴがあがってしまうクセが目に付く
1回は、足を使って、手数にまさった澤田のラウンド
しかし、2回以降、体格にまさる福村に、打ち終わりをショートの右で狙われる。
最終4回 30秒過ぎには、前に出る澤田に、福村の右がカウンターでクリーンヒット
澤田のひざが揺れ、さらに、右ストレート、右アッパーがヒット
澤田の反撃を巧みなダッキングでかわした福村は、ラウンド終盤、きれいなワンツーから
右ストレートをフォロー
あと1ラウンドあれば、倒れていたと思われるダメージを与える
ジャッジ3者ともに、39-37 3-0の判定で福村の勝ち
そして、いよいよ第6試合 杉田兄、純一郎の登場
スーパーフライ級6回戦
純一郎の戦績は、10戦9勝5KO1敗
相手選手は、帝拳ジムの室橋守(5勝1敗1分、23歳)
1回 闘志満々の室橋は、果敢に前進
しかし、バランスとフットワーク、連打の回転も利く右ボクサーファイター、純一郎は、
左を突いて、室橋のプレスをさばき、30秒過ぎ、右ストレートから、左フックを決める。
上下の打ち分けも巧みで、この回は、完全に純一郎ペース
しかし、2回、予想外の波乱が起こる
この回も順調に、ペースをつかんでいた純一郎
勝利はまちがいないと思われた2分半過ぎ
右の打ち終わり、がら空きになった純一郎の顔面に
室橋、渾身の左フックが叩きつけられる
衝撃で、前につんのめり、そのまま、キャンバスに突っ伏すように倒れる純一郎
帝拳ジム陣営は狂喜 ヨネクラ陣営は呆然
何とか立ち上がった純一郎だが、足元はふらふら。
しかし、悪運、強しというべきか、2回残り時間はほとんどなく、ゴング
KO負けの危機から救われる
コーナーで、呆然とした表情で座り込む純一郎
ヨネクラセコンドからは、ジェスチャー入りで、「頭を振れ」の檄
3回 決めにかかる室橋は、容赦ない攻撃
純一郎は、まだ、ダメージが残っていて、ひざが不安定
また、打ち終わり、ダメージから体が揺らいでしまって、そこに回られて、さらに打たれる
ここで、つぶされてなるものか・・・・・
純一郎を支えるものは精神力
3回は、明確に、室橋のラウンド
4回 ここから、純一郎が驚異的な粘りを見せる。
セコンドの指示もあり、この回から、頭を振って、上体をやわらかく使って、前に出て
中に入って、顔を真っ赤にして、アッパー、フックを連打する純一郎
すさまじいスタミナ、勝利にかける執念
一方、室橋は、この回、なぜか、手が出ない。
純一郎のプレスに押されてしまったのか、打ち疲れか、あるいは狙いすぎからか。
ラスト10秒 ダウンのお返しであるかのように、純一郎の左フックが、室橋のテンプルに
逆に、室橋も右ストレートを、カウンターでヒットさせる
この回は、手数、攻勢、有効打、ともに、純一郎のラウンド
ここまで、私の採点では、1ポイント差で、室橋のリード
しかし、「流れ」が明らかに変わりつつある。
5回 なりふりかまわず、スタートから、前に、前に、手数を繰り出す純一郎
いけるときにいける いかなくてはならない場面でいくことができる
それだけのスタミナと気持ちの強さが、この日の純一郎にはあった。
室橋はとにかく手が出ない
同じスーパーフライ級でも、やや骨格は純一郎の方が大きく、たくましい
「体力負け」 「体格負け」の様相だ
この回は純一郎のラウンド これで、私の採点では ついに同点
ダウンで失った2ポイントを純一郎は、新潟県人らしい「粘り」で挽回してみせた形
そして、最終6回
前に出る純一郎と、迎え撃つ室橋の、打撃戦
この回は、室橋も引かない。手をがむしゃらに、出し続ける。
お互い、頭を付け合っているため、バッティングで、室橋は右目じりをカット
室橋の鮮血が、純一郎の白いトランクスを赤く染める
ラスト10秒、2回のダウンを再現するかのような室橋の強烈な左フック
純一郎は、持ちこたえ、試合終了
この回は、ほぼ互角
私の採点では、この試合、57-57で、ドロー
しかし、ジャッジは三者とも、57-56で、純一郎を支持
白熱の一戦は、純一郎が判定で、室橋を下した。
第7試合 フェザー級6回戦 ○上野規之(1回2分KO)西田将人●
ワタナベジムの上野(6勝1KO7敗1分)が、横田スポーツジムの西田(4勝2KO3敗1分)
から、3度のダウンを奪って、KO勝ち
そして、いよいよセミファイナル 弟、杉田祐次郎の登場
戦績は、10戦9勝4KO1敗
この弟、祐次郎、「ボクレポ」は、兄、純一郎よりも、評価が高い
まず、パンチ力が違う
スパーリングで、ヨネクラの某ライト級選手の肋骨をへし折った、というエピソードからも
わかるように、特に、左のフックは一撃で、KOに結びつく威力がある
また、上体の柔軟さ、ひざの柔らかさが、兄よりもまさっている。
兄、純一郎が、やや腰高で、上体が固い印象を与えるのに対して、弟の祐次郎は上体が
柔軟
リズム感たっぷりに、頭を振り、ダッキングもスムーズにこなす
また、強いパンチ力、あるいは、上体のスムーズなムーブを支えているものが、祐次郎
のひざの柔らかさ
ひざを折り曲げて、体重移動が行われることから、足腰の回転を利かせた「体重の乗った
パンチ」を打ち込むことができる。
祐次郎の左フックの威力の秘密はここにあると考えられる。
注目のスーパーバンタム級6回戦
対戦相手は、JBスポーツジムの久保田智人
戦績は17戦10勝1KO6敗1分
余裕しゃくしゃく 入場テーマ曲に合わせて、頭を振って、リズムをとって、入場の祐次郎
勝負度胸も満点
1回 1分10秒過ぎ 必殺の左フックが、早くも炸裂
倒れこむ久保田
なんとか立ち上がるも、ふらふらの状態
そこにさらに、パンチを打ち込む祐次郎
「もう、止めろ」 「危険だ」
ファンからもレフェリーストップを促す声
ガードを固めたまま、打たれっぱなしの久保田
ラスト10秒、またもや強烈な祐次郎の左フック
コーナーに帰ってくる久保田の顔面は、ぱんぱんに腫れて、変形している。
しかし、その表情は・・・・・・・・・・・
不敵に、笑みをたたえていたのだ。
久保田はまだ、死んでいない。
2回
40秒過ぎ またも強烈な祐次郎の左フック
しかし、久保田は倒れない
いや、倒れないどころか、振りの大きい祐次郎の左フックに合わせて、久保田自身も、左フック
を叩きつけてくる
これがけっこう、まともに、入っている
「相手、効いてるぞ、」 「久保田、頑張れ」
JBスポーツ久保田陣営の怒号
明らかに、表情に、動揺をかくせない祐次郎
見ると、口元が開き、マウスピースが丸見えに
「相手、疲れてるぞ、久保田」
久保田陣営セコンドの檄
3回
いいパンチが、はいっているはずなのに、倒れない久保田
オーバーペースか、祐次郎は、明らかにスタミナ失速
しかし、久保田のダメージも深い
4回
この回、体勢を立て直し、振りを小さく、コンパクトにまとめてくる祐次郎
打ち合いの中、偶然のバッティングで、久保田の左目じりが切れる
しかし、血を流しながらも、倒れずに、手を出し続ける久保田
彼にとっては、この試合、まさに、二度とありえない「チャンス」なのだ。
評価の高いランカーの祐次郎を食って、取って代わるか
それとも、予想通りに、このまま敗れていくのか
ボクサーとして、生きてきた以上、最後まであきらめるわけにはいかない。
戦うことをやめるわけにはいかない。
現に、祐次郎の口は開き、その表情からは余裕が消えている
やつの左もかなり食らったが、自分のパンチもかなり、入っている
可能性が、少しでもあるかぎり、戦いをやめるわけにはいかない。
しかし、5回52秒
祐次郎の、渾身の左フックが、久保田を打ち抜いた。
失神KO
意識をなくした久保田は倒れこんだまま、ピクリとも動かない
ここまで、根性をすえて、頑張る相手を倒すには
失神まで追い込まなければならなかった
ここまでやらなければ無理だった
勝ち名乗りを受ける祐次郎だが、その表情は晴れやかとはいえない
舌を出して、自分の失態をファンにわびるかのような振る舞い
技術的には、やはり、左のフック一発に頼りすぎていた
強振するため、打ち終わりが不安定になり、久保田のカウンターを、もらってしまった
また、驚異的な粘り、スタミナで勝利をもぎ取った兄、純一郎と対称的に
スタミナに課題が残った
息が上がっていたことは明らかだった
久保田は、本当によく頑張った。
担架が用意されたものの、意識をようやく回復した久保田は
しばらく、コーナーの椅子に座り込むと、立ち上がり、自分の足で立って、
控え室に消えていった。
観客からは、暖かい拍手
第9試合 ライト級8回戦 ○嶋田雄大(4回1分58秒KO)金頭成●
WBC世界ライト級7位、ヨネクラジムの嶋田(18勝11KO3敗1分)が、韓国Sライト級2位
金頭成(5勝2KO10敗)に、4回1分58秒、左ボディでKO勝ち
嶋田は1回から、左ジャブで、金の動きを封じる。金の攻撃は、巧みなスリッピングアウェー、
ボデイワークで、ことごとく見切られる。
嶋田は、無駄な力が入っていない、スムーズなパンチで圧力をかけて、4回、左ボディで
金をキャンバスにはわせ、みかねた金陣営のセコンドがタオル投入
嶋田のKO勝利となった。
マイクを握った嶋田は、
「世界挑戦が遅れていて、申し訳ない。でも、あきらめたら終わり」
とアピール
「チャンスがあれば、宇宙の果てでも行く」と世界戦実現に向けた意気込みを語った
対戦相手との間に、実力差がありすぎたとはいえ、
嶋田選手のこの日の動きはすばらしかった。
体も、きちんとシェィプされていて、無駄な力が抜けて、軽やかにスムーズに戦っていた。
「ボクシングの達人」といった感じ・・・・・・・
最後に・・・・
現WBCミニマム級王者、イーグル協和選手は、「週刊現代」誌上で、モチベーションを
欠いた外国人選手とばかり、対戦する亀田選手を皮肉って、
「亀田選手は、ボクシングの地獄、を見ていない、それを私が味あわせてやる」
と、将来の対戦をアピールした。
「ボクシングの地獄」
この日、「杉田兄弟」が遭遇したものは
まぎれもない「ボクシングの地獄」だった。
純一郎は、衝撃のダウンの中に
祐次郎は、久保田選手の考えられない頑張りの中に その必死の眼の中に
「ボクシングの地獄」を垣間見たはずだ。
多くの修羅場をかいくぐり、試合の中で、「地獄」に遭遇するたびに
ボクサーはより、たくましく、鋭く磨かれ、より強くなる。
決して、すんなりとは勝てなかった今日の一戦を経て
杉田兄弟はさらに、一段と強く、優れたボクサーに成長するに違いない。
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