名城信男、世界奪取(7.22現地ナマ観戦記) |
名城信男が世界を奪った
そして、「男の約束」を果たした
「約束」を交わした相手は故田中聖二選手
「墓前に、世界王者のベルトを捧げること」
そのために、彼は戦った
「約束」を交わしたのは三回
一度目はプロスパー松浦との世界前哨戦の前
二度目はこの世界前哨戦に勝利したあと
三度目が本年4月15日 田中選手の一周忌
墓前に、頭をたれて、名城は、田中に誓った
世界王者 マーティン・カスティーリョは絶対的な強さを誇るスーパーチャンピオン
戦績31戦30勝1敗16KO アマ戦績161勝19敗 1996アトランタ五輪のメキシコ代表
プエルトリコのエリック・モレル、 ベネズエラのアレクサンデル・ムニョス
そうそうたる世界の強豪選手と拳を交え、4度の防衛に成功中
年齢も29歳と脂が乗り切る年頃
一方、名城信男 24歳 プロ戦績7戦7勝4KO 経験不足は否めない
では、キャリアの不足を補って余りある天賦の才、があるかというとこれも疑問
57戦38勝19敗
華々しい王者の戦績と対称的に、名城のアマ戦績は冴えない
名門近畿大学ボクシング部に所属していたが、学費未納で中退に
どうしても、夢をあきらめきれず、六島ジムの門を叩いた
王者の油断
「オリンピックメキシコ代表のエリート」「絶対王者」カスティーリョ対「雑草男」名城信男
「無謀」 「時期尚早」 周囲の冷ややかな視線
「普通に考えたら、世界までにもう少し経験が必要だとは思いますが、私はどんな相手
であろうが、見くびったりはしません。ましてや戦績で判断することはありません。」
名城の印象について聞かれた王者カスティーリョの言葉
油断なく、一分のすきもない王者
しかし、戦いを目前に控え、この発言はあくまでも「リップサービス」
建て前的な「優等生発言」だったことが明らかに
「彼はどこにでもいる普通のボクサー」
「ビデオを見たが、途中で寝てしまった」
試合直前の記者会見で、垣間見えた王者の本音
世界戦直前の18日に行われた名城の公開スパーリング
なんとカスティーリョ陣営は、誰一人、視察に訪れなかった
「見る必要もない」とばかりに
WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ
マーティン・カスティーリョ対名城信男
戦前の予想は、もちろん、挑戦者不利
名城に、勝機があるとすれば、距離を詰めて、連打を効かせること
狙いは大番狂わせ、を演じた4戦目グリーンツダジムの世界ランカー本田秀信戦の再現だ
1回 名城は、果敢に前に出る
頭を振って、左ボディを狙うポーズの体勢のまま、右オーバーハンド
本田戦でも1回に見せたフェイント攻撃だ
しかし、王者は巧みなヘッドスリップ、ウイービングで、パンチをよける。
それでも、かまわずに、前に出る名城
2分20秒過ぎ 右のアッパーから、左フックで、名城が王者をロープに詰める
回り込んで、かわす王者に、名城は、トリッキーなウイービングを入れつつ、にじり寄って
右ストレート
しかし、バックステップでかわしつつ、王者はカウンターの左フック
浅いあたりながら、クリーンヒット
しかし、名城は、口を開けて、にやりと笑う
さらに前に詰める名城
右ストレートを強振
しかし、王者は、かわしつつ、再度、左のフック
これは、深く、名城のあごに入り、ひざが揺れ、足がもつれる
「いまだ!行け!」
絶好のKOチャンスに、王者のまゆがつりあがり、怒涛のラッシュ
名城はクリンチでなんとか逃げ切る
1回 距離を支配していたのは名城 しかし、有効打は王者が上 最後の左フックはまともに
もらってしまった
やはり、だめか・・・・・・意気消沈する場内の空気
2回
しかし、名城の前進は止まらない
不器用な名城の防御は、とにかくグローブによるガード
ウイービングとか、ヘッドスリップとか、スエーバックとか
そんな見栄えのする防御技術は一切、使わない
グローブの上を打たせる グローブでパンチをはらいのける
打たせたあと はらいのけたあと
ノーモーションで、リターンのショートの右をひたすら打ち込む
そして、この回、2分30秒過ぎ
名城に、奇跡が起こる
1回と同様に 王者の左フックが名城のテンプルにカウンターで入る
なぜか、一瞬、このパンチの効果を確かめるかのように名城の表情をうかがう王者
「これはきいたはずだ・・・・」
ところが、この一瞬、生まれた「間合い」に、名城のショートの右
この一発が、まともに王者の顔面をとらえる
それこそ、グローブではなく、「顔面」でブロッキングして、すかさず打ち返した形
この一打で、王者の目元は裂けて、出血
この「間合い」を呼び込んだもの・・・・
これが、まさに「王者の油断」
そして、「挑戦者の執念」 「背負うものの大きさ」だったのではあるまいか。
ビッグ・アップセット(大番狂わせ)
3回 名城、相手の踏み出したシューズに目をやりながら、左のフック
スウイング気味の左フックを打つと見せかけての右ショート
王者の左ジャブを、パーリングして、はらいのけて、その間隙に、踏み込んで右アッパー
「リターンのジャブ」ではなく、相手のジャブに対する「リターンの右ショート」
踏み込むと同時に小さくコンパクトに打ち込まれる右
「ワンツー」に、「逆ワンツー」
いずれも、左を出すと同時に、右を起動させている感じで、打ち出しがわかりにくく、
かわしにくい
泥臭く、実戦で鍛え上げられた名城独特のリズムで繰り出されるパンチが王者を襲う
4回 5回 そして6回
試合は名城のペース
王者は、2回に負った左目元の傷が開き、おびただしい出血
しかし、7回 王者、反撃に
右アッパーから、左フック
さらに、上下に打ち分けられる左のダブル
小刻みに動くフットワーク
なりふりかまわず、集中して、勝負に出た王者に、名城の手数が止まる
「手数」と「前進」こそ、名城の生命線
ラスト10秒、ロープに詰めて、連打の名城
しかし、王者は、詰められたままの体勢で、上体の動きだけで、名城のパンチをすべて
かわしてみせる
8回 ワセリンを傷口にべっとりと塗ったまま、この回も、攻勢をとる王者
名城、果敢に前に出るが、ことごとくかわされて、有効打はない。
ついに、王者が名城のパンチに慣れてきた 見切ってきた印象
カウンターを入れつつ、足を使って、名城をさばく王者
この回も王者のラウンド
私の採点では、ここまで2ポイント差で名城の優位
1回 7,8回は王者 2回から6回までは挑戦者と見た
しかし、2回は微妙なラウンド 王者につけたジャッジもいるはずだ
そして、9回
あとでわかったことだが、この回が始まる前
レフェリーは王者陣営に、目の傷口が塞がらない場合、試合をストップすると宣告していた
という。
この回も、王者のペース
名城のパンチは、空を切り続ける
そして10回 1分2秒
王者の傷口をチェックしたレフェリーが試合をストップ
名城のTKO勝ちが告げられた
場内、大興奮
一瞬、何が起こったのかわからないといった表情を浮かべた名城は、次の瞬間、勝利を悟る
セコンドに抱きかけられて、歓喜の涙
「勝ってしもうたです」
信じられないといった表情の名城
まさに、ビッグアップセット、大番狂わせ
敗者カスティーリョの側から見ると
敗因はなんと言っても「油断」
対戦相手、名城の過小評価からくる、緊張感の不足、それが招いた調整不良だ
実は、王者陣営は過酷な減量から調整を誤り、体調が万全ではなかった可能性が高い
不運もあった。
2回のパンチ、あの一瞬の「隙」に放たれた名城のパンチで、目元が切れなければ
8回、9回と、名城の動きを完全に見切っていた感があった王者が10,11,12
回とポイントアウトして、逆転の判定勝利を収めていたはずだ。
一方、名城の勝因は、集中力と執念、そして、常に自分の「距離」で戦うプランを貫き
不器用なまでに愚直に、忠実に、この「プラン」を守りぬいたことだと思う
「前に出て」「距離を詰めて」「手数を振るう」
そして、「ガードはブロック」
また、やや感傷的かもしれないが、背負うものの大きさが違っていたのではあるまいか
名城は、カスティーリョ以上に、負けられなかった
わずかプロ8戦の男のほうが、五輪代表のエリート王者に比べて、重いものを背負っていた。
ギリギリの場面で、両者の思い、背負うものの重さが勝敗を分けた
押しつぶされそうなくらい重いものを背負いながらも
やみくもに走り続けることで、その重さは、逆に、名城の背中を強く押して
前に出る原動力になった
2006年7月22日 名城信男は、世界王者となり、「男の約束」をここに果たした
この日の興行は、全8試合
六島ジムのノーランカー、安田幹男がWBC世界バンタム級17位、メキシコのハイメ・オルティ
スに挑んだ10回戦
日本スーパーフェザー級8位、六島ジムの山崎晃がOPBFフェザー級4位、タイのデンタクシン
スーンキラノイナイに挑んだ8回戦
など熱戦が展開された。
第1試合 53.97キロ契約10回戦 ○安田幹男(3-0判定)ハイメ・オルティス●
テレビ放送の都合か、ノーランカーの安田(13戦8勝8KO3敗2分)と、WBCバンタム級17
位の世界ランカー、メキシコのハイメ・オルティス(22戦12勝7KO10敗)の対戦が、この日
の第一試合
1回から5回までは、オルティスのペース
オルティスは、スピードはなく、べた足ながら、一発一発をしっかりと打ち込む右ボクサー
ファイター
特に、左のパンチの使い方が巧く、メキシカンに特徴的なボディ打ちをからませた左のダブル
、コンビネーションが冴える
また、カウンターをとるセンスに優れ、後退しつつも、的確に安田にパンチを決める
安田は果敢に、前に出るが、オルティスをとらえきれず、インターバル時のコーナーでの表情
を見ても、かなり苦しそう
流れが変わったのは6回あたりから
この回から、安田は、右のボディストレートを多用
オルティスの足が止まり、手数が減るや、安田は、ガードをしっかりと固めたまま、プレスを
強めて攻勢に
最終10回 これまで、下がり勝ちのオルティスが、この回は前に
逆に、安田は、足を使って、オルティスの攻勢をさばく展開
接戦が予想されたが、判定結果は、96-94 97-93 98-92 と大差で安田の勝利
一貫して、前に出た姿勢がジャッジに評価された形
第2試合 60キロ契約4回戦 ○百田論志(3-0判定)米澤隆治●
奈良工業高校→近畿大学ボクシング部出身、名城の後輩にあたる六島ジム、米澤のデビュー
戦。
対戦相手、大阪帝拳の百田(1勝1KO2敗)は、がっちりした体格のパワフルな右ファイター
ガードをしっかり固めて、フック気味、オーバーハンドの右、左アッパーから右ストレートの
コンビネーションで、一方的に攻め立てる
判定結果は3-0 40-36 40-36 39-38 で、百田の勝ち
第3試合 フライ級4回戦 ○堀江純平(2-1判定)木村聡●
大阪帝拳の堀江(3勝3敗)が、塚原京都ジムの木村(1勝1分)に2-1の判定勝ち
距離を詰めての、接近戦を優位に進める堀江が、二人のジャッジの支持(39-37 39-38)
を得て、2-1の判定勝ち
ジャッジの大黒利明は、39-37で、塚原を支持
第4試合 WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ
○挑戦者 名城信男(10回1分2秒TKO)王者 マーティン・カステリョ●
第5試合 スーパーフェザー級8回戦
○山崎晃(2回55秒KO)デンタクシン・スーンキラノイナイ●
日本スーパーフェザー級8位、六島ジムの山崎(11戦7勝3KO1敗3分)が、OPBFフェザー
級4位、タイのデンタクシン・スーンキラノイナイ(22戦12勝7KO10敗)に2回KO勝ち
現日本スーパーフェザー級王者小堀佑介と2度戦い、1度は引き分けている(1分1敗)山崎
が、1回ラスト10秒、左ボディアッパーでタイのスーンキラノイナイからダウン
2回、追撃のボディで、スーンキラノイナイは立ち上がれず。山崎のKO勝ち
日本王者、角海老宝石ジムの小堀への挑戦をアピールした。
山崎は「フェザーにも落とせる」とのこと。その場合は、同じく角海老宝石ジムのフェザー級
王者渡邊一久が、ターゲットに。
第6試合 フェザー級4回戦 ○奥健太郎(2-1判定)垣見悟志●
奈良六島ジムの奥(2敗1分)が、グリーンツダジムの垣見(デビュー戦)に、2-1の判定勝ち
プロ初勝利を上げる
両者ともプロ初勝利を目指す一戦
デビュー戦の垣見は、センスのあるサウスポー
対する奥は、前に出て、手数で対抗
頭を付けての打ち合いに持ち込み最終4回、手数で優位に立った奥が、2-1
(39-38 37-39 39-38)の判定勝ち
勝った奥は、運動会の騎馬戦の大将役のように、セコンド陣に、抱え上げられて、腕を上に
振るって、歓喜の表情
それこそ、世界戦に勝ったような喜びぶりで、こちらも大笑い。深く印象に残った。
第7試合 スーパーフライ級4回戦
○内田悟(4回1分39秒TKO)チャロエンチャイ・ポー・プエンルアンポン●
グリーンツダジムの内田(6戦1勝1KO3敗2分)が、タイのチャロエンチャイ・ポー・プエンル
アンポン(12戦5勝1KO7敗)との一戦は、1回にダウンを奪った内田が、そのまま試合を
優位に進め、左ボディアッパーで4回TKO勝ち。
第8試合 スーパーフライ級4回戦 △柴田匡俊(1-0判定)薗部圭佑△
大鵬ジムの柴田(5戦1勝2敗2分)と、大阪帝拳ジムの園部(5戦2勝3敗)の一戦
2004年10月に両者は対戦、この際はドローに終わっているが、今回も、結果はドロー
ジャッジの原田武夫は、39-37と柴田を支持したが、他のジャッジは38-38
最後に・・・・・・
「強かったよ、ありがとう」
あの田中聖二選手が、最後の試合の直後、互いに抱き合った時に、かけた言葉
それが、最後の言葉、田中の名城にあてた遺言だった
悩み苦しみ、ボクシングをやめようと考えた名城を再び、リングに引き上げたもの
自分の拳で、摘み取ってしまった他人の夢、人生、思いを背負って生きて、
「こんなにすばらしいボクサーに、敗れたのなら、悔いはない」
「むしろ、誇りだ」
せめて、そう、思ってもらいたいという一念ではなかったか。
「強かったよ、ありがとう」
東大阪アリーナの熱狂と歓呼の中
顔をくしゃくしゃにして喜ぶ男を見て
天国の田中選手は、再び、微笑みながら、そう語りかけているに違いない
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