最終10回ラスト10秒の奇跡!小堀佑介対三浦隆司 (9.15後楽園ホール) |
「やれるか、小堀」
「・・・・・・・」
絶体絶命のピンチ
2007年9月15日 日本スーパーフェザー級タイトルマッチ
王者、小堀佑介 対 挑戦者、同級1位、三浦隆司
8回終了後の赤コーナー
王者、小堀佑介は右眼の視力がほぼ奪われてしまったことを「師匠」田中栄民トレーナー
に告げた
8回1分50秒過ぎ
三浦が放った一発の左ストレート
まともに小堀の右眼を直撃
「グローブが眼に入って何も見えなくなりました」
打たれた直後、グローブで右眼を覆う動作
「効いている」
ダメージを察知した三浦は一気に猛攻
右フック 左ストレート
左アッパー ボディフック
「相手が壊されてしまうからスパー相手を見つけてくるのが大変」
横浜光ジムで囁かれる「豪腕伝説」
硬質のパンチが次々に襲う
一発一発が石で殴られるような痛み
「眼から花火が出続けました」
試合直後の控え室
眼を覆いながらしぼり出す様に口にした王者、小堀
「腹も効きました」
防戦一方
反撃のパンチはない
弱々しく、ロープに後退する小堀
さらに追う三浦
確実に小堀の肉体に刻まれるダメージ
王者の口元に異変
白いマウスピースの形が露わに
苦しげにゆがむ口元からこぼれそうなマウスピース
かつてない王者のピンチ
「小堀、効いちゃってるよ」
場内は悲鳴にも似た歓声に包まれる
それでも小堀はガードをしっかり固めて
ウイービング ダッキング
ボディワークを駆使し三浦のパンチの衝撃を最小限に食い止めようとする
8回終了
赤コーナーに帰った小堀
椅子に腰を落とす
傍らからは鈴木正雄オーナー自ら乗り出し小堀の赤く腫れたボディに氷の詰まった
袋をあてがう
「眼が見えません」
右眼の異常を訴える小堀
「やれるか、小堀」
じっと愛弟子の眼をのぞきこむ田中栄民トレーナー
表情はあくまでも冷静
「できません」という一言が返ってきたら
試合放棄となり、小堀佑介8回終了TKO負け
新チャンピオンに三浦隆司が君臨することに
最悪の事態に備えるかのようにあえて感情を殺し
愛弟子の眼と
さらにその奥に在る心を凝視する田中トレーナー
一瞬ではあっても二人にとっては長い沈黙
「やれます」
気負いも無く淡々とした口調
小堀佑介は降伏を拒絶
最後まで前に出て戦うことを選ぶ
「大丈夫だな」
呼びかける田中トレーナーの表情は変わらない
「はい、やれます」
応える小堀もいつものポーカーフェイス
セコンドアウト!セコンドアウト!
9回が目前に
「ラウンドナイン」
冨樫アナの声が響く
ゴングが鳴る
順調すぎる調整
前回4度目の防衛戦となった村上潤二選手(八王子中屋ジム)との一戦を教訓に
今回の防衛戦に向けた小堀選手の調整は順調そのもの
6月26日には「お引越し」を完了
この「お引越し」 ただの住居移転ではない
引越し先は師匠田中トレーナーの自宅のすぐ裏手
「コボリでなくサボリ」
そんな不名誉なニックネームさえつけられるほど練習嫌いで知られた小堀選手
それでもこれだけ強いのだから日々の練習さえ怠らなければ鬼に金棒
現在、WBA8位 WBC5位に位置する世界ランカーでもあり、世界戦に向けて今年から
来年いっぱい
眼をはなすとすぐにサボってしまう?小堀選手を徹底的に監視下に置き、ボクシングに専念
させようというのが「智将」田中トレーナーの作戦
この「お引越し」の狙い
詳細は過去記事 「小堀佑介、世界獲りの秘策は・・・・お引越し???」 ご参照いただければ幸い
引越し完了の翌日
6月27日から早朝のロードワークスタート
約7キロの道のりをかなりのハイペースで走りこむ
この間、自転車で田中トレーナーがつきっきりに
「中途で手を抜かないように」というわけ
「こんなに走ったのはボクシング人生ではじめてです」
面食らう小堀選手
さらに7月2日からは帝拳ジムに出向いてホルヘ・リナレス選手とスパーリング
2日 5ラウンド
4日 5ラウンド
6日 3ラウンド
10日 3ラウンド
合計16ラウンド
ひいき目無しで見ても充実した素晴らしい内容
「リナレスの高速ジャブにきちんと右をあわせてくるのは小堀だけだよ」
帝拳ジム関係者も高い評価
世界戦が決まったリナレスの取材に来ていたWOWOW関係者も小堀選手の健闘ぶりに
眼を見張る
「リナレスとやる他の選手はみなボコボコにされてしまうんです」
「でも、小堀君はまともに打たれていないし、カウンターを決める場面もあった」
「驚きました」
ところが小堀選手本人は
「リナレス選手は化け物です」
「ボクシングをしていては全くかないません」
相変わらず低姿勢、謙遜
さらに7月12日からは10日間の日程で茨城県水戸市でキャンプ
キャンプ期間中はひたすら走りこみに徹し、スタミナ強化に努める
詳細は 過去記事 「角海老宝石ジム5人衆、地獄の水戸キャンプレポート」
ご参照いただければ幸い
7月30日からはジムワークをスタート
その間も毎朝の走りこみは続く
以下は私事にて恐縮
ロードワークの取材ということで私も自転車に乗って同じ道のりを何度か
そのうち自転車を降りて実際に走ってみたらどのくらい苦しいのかと疑問が
小堀選手を含めて毎朝、走っている選手の姿を見ていると自然に体がムズムズ
いやでも闘争本能が刺激されてくる
別に誰かと戦いたいというわけではないのだが・・・
毎日はさすがに無理なので、週3回のペースで一緒に走ってみることに
スタートは8月5日
選手が3周走るコースを2周のペースで
以後7日 9日 11日と走ってみたが11日の段階で右ひざに違和感
押してみると皿にヒビが入っているのかと思うほどの痛み
それでも15日に参加
途中から走れなくなってしまい歩きながらいちおうノルマの2周は完走
ここで完全に右ひざがパンク
階段の上り下りも手すりにつかまらないとできなくなってしまう羽目に
この時期、ホールでびっこを引いていたのはこういうわけ
まさに「年寄りの冷や水」
なんとも情けない話になってしまったが、選手の運動能力の高さを身をもって知った次第
王者のKO宣言
挑戦者、三浦隆司選手は同級1位ではあるがキャリアに乏しい
戦績は13戦12勝10KO1分け 無敗
ただし13戦中なんと7戦がタイ人相手
「今回は特に作戦はない」
試合を約1週間後に控えた段階で田中トレーナー
「三浦選手の前進にカウンターを合わせる」
「自分から前に出てくるファイタータイプだから小堀とはかみ合う」
「今回は調整も順調、スパーの内容もいいし、不安要素はないな」
自信満々
小堀選手本人も今回は珍しく?強気のコメント
8月28日に収録した 「第10回ビータイトラジオ」
出演した小堀選手
「KOで倒したいと思います」
「KO決着」を宣言!
調整が万全であることを反映し、余裕の王者サイド
専門誌や関係者の予想も小堀有利が圧倒的
ただし、気になるポイントも
第一に三浦選手の破格のパンチ力
所属の横浜光ジムでは壊されてしまうので危なっかしくてスパー相手を見つけるのに
苦労しているという情報が
第二に体格面では三浦選手が優位と考えられること
三浦選手の本来の階級は、実はライト級
アマ、プロ通じて、60キロ以下の体重で試合をしたことはほとんどない
スーパーフェザー級のリミットは58.9キロ
60キロからさらに1.1キロ減量しなければならない
三浦選手陣営の立場から見れば、減量苦が懸念されるところ
ただしスムーズに減量することに成功できれば
小堀選手は、本来一階級上のライト級の体格の
しかもハードパンチャーと対決することになる
ノーモーションの左
そして迎えた試合当日
師匠田中トレーナーの運転するバンで会場入りの小堀選手
緊張した様子は全く見られず
当日計量も増量は適正の範囲内
あまりにも体重が増えすぎてしまって体が動かなくなってしまった前回の村上選手との
防衛戦の教訓は生かされている
柔軟体操で十分に体をほぐし
田中先生がバンテージを巻き拳を固める
赤いグローブで拳をつつみ、シャドー
さらにミット打ち
いよいよ出番
今年1月6日に行われた大之伸くま選手との3度目の日本タイトル防衛戦から登場した
小堀選手ののぼり
今までは角海老ジムのスタッフや練習生がのぼりを振ってくれていた
今回からはじめて小堀選手のファンクラブ「クラブコボリ」の有志がのぼりの持ち手に
場内暗転
入場曲は「イッツマイライフ」
信念を貫いて生きることの大事さを歌い上げたもの
曲に合わせて、レーザー光線が躍動
ホール南側の壁にレーザーで文字が映し出される
リングインするや四方からスモーク
試合開始
1回 三浦、ノーモーションの左ストレート
右リードは出さず、いきなりの左
「左にカウンターを合わせようとしたのですがタイミングがつかめませんでした」
振り返る小堀選手
「頭の位置が後ろに残ったままで、左を打ち込んでくるんだよな」
田中トレーナーの述懐
「だからカウンターを合わせにくいんだ」
この一戦
三浦のノーモーションの左に小堀は苦しめられるjことになる
1回は手数、有効打ともに三浦優位
10-9三浦
2回も三浦のラウンド
左が上下に
小堀は手数が出ない
「調子が良すぎたのだと思います」
「狙いすぎてしまって、手数が出なくなってしまいました」
小堀のコメントに田中トレーナー
「ボクサーはそうなってしまう時があるんだ」
「ここがボクシングの難しいところなんだ」
しかし3回開始直後
三浦の左アッパーに合わせた小堀の右フックがヒット
三浦、ダウン
立ち上がってくる三浦に一気に襲いかかる小堀
左右のフックの連打
ところが2分過ぎ
今度は三浦の右フックがヒット
「グローブが眼に入りました」
足がもつれ、よろめく王者
今度は三浦が攻勢
小堀をロープに詰めてみせる
4回
3回後半の流れを引き継ぎ三浦のペース
ノーモーションの左が次々にヒット
「ダウンをとったあとのラッシュで打ち疲れてしまいました」
振り返る小堀
この回は10-9三浦
死闘
5回 今度は小堀が三浦に傾いたペースを取り返す
ラスト10秒の猛攻
必殺の右フックがクリーンヒット
しかし、三浦は打たれても前に
6回 前半は三浦のノーモーションの左が支配
しかし後半は小堀が左右のフック
7回 ラスト10秒
小堀、ボディへのフェイントを入れた右フック
大之伸を沈め、村上をキャンバスに這わせた得意のパンチ
これがまともにヒット
しかし三浦は屈しない
「リングで戦っている本人じゃないとわからないと思いますが・・・」
小堀
「100%力がこもったパンチが当たっていたんです」
「それでも三浦選手は倒れませんでした」
7回は10-9 小堀
私の採点は7回終了時で67-66
わずかに1ポイント差で小堀
そして冒頭に戻り、問題の8回
1分50秒過ぎ 三浦の左が小堀の右眼を直撃
防戦一方
打ち込まれロープを背負わされる王者、小堀
右目の視力が失われ、マウスピースがせりあがる
それでもなお「もっと打ってみろ」
そういわんばかりにグローブを振って挑発する小堀
このような挑発のパフォーマンスを見せるのははじめて
今から思えばこの時点で彼の体に異常事態が起こっていたことは明らかだった
あの挑発はむしろ自らを奮い立たせるためのもの
そうでもしなければ自らを支えきれないほどの激痛が彼の体を蝕んでいたはずだ
8回は10-9 三浦
「やれるか、小堀」
右目の異常を訴える小堀に、田中トレーナー
「やります」
誇り高き王者は降伏を拒絶
最後まで最善を尽くし
矢尽き刀折れるまで戦うことを決意
9回 三浦の左が小堀を襲う
顔面に ボディに
「三浦選手が二重に見えていました」
しかし、ラスト20秒、小堀、死力を尽くして反撃
左右のフックがヒット
しかし三浦も打ち返す
三浦の左でついにマウスピースがキャンバスに
小堀選手のマウスピースが飛ぶシーンを見たのははじめて
信じられない光景
右目の激痛
1回から打たれつづけたダメージ
マウスピースを噛む力も失われるほどボロボロに消耗
それでもなお二重に見える三浦に向けてパンチを振るい続ける王者小堀
10回ラスト10秒の奇跡
「ここまでドローだ」
田中トレーナーの指示
この回で全てが決まる
「この回にボクシング人生の全てを賭けて、全てを出し切れ」
暗黙の指示
青年は高校時代にボクシングと出会う
これまで特に打ち込むものも熱くなれるものもなかった青年をはじめてとりこにしたもの
それがボクシングだった
部活動もせず授業が終わるとジムに直行
一日四時間、五時間
とりつかれたかのようにジムで汗を流し続けた
「プロボクサーになる」
そう決めた青年は今度は猛然とアルバイトにいそしむ
そして親の反対を押し切って家出同然に東京へ
アルバイトで貯めたお金で風呂無しのアパートを借り、角海老宝石ジムの門を叩いた
2000年2月19日 18歳でプロデビュー
2006年1月14日 真鍋圭太を下し、日本チャンピオンに
2007年5月19日 村上潤二を下し、東洋太平洋チャンピオンに
WBA8位、WBC5位 堂々たる世界ランカーにまで登り詰めた
戦績23戦20勝11KO2敗1引き分け
このキャリアのすべてをかけて最終10回に臨む小堀佑介
三浦も必死
大番狂わせを狙って、プレスをさらに強めて前に
打ち合う両選手
ほぼ互角の攻防の中ラスト15秒
三浦の左が炸裂し、またもやマウスピースがキャンバスに
絶体絶命か
ラスト10秒
しかし、王者は最後の力を振り絞った
ワンツーフック ワンツーフック
はじめは空を切っていたブロー
ワンツーフック ワンツーフック
このブローが徐々に三浦に接近
ついにその顔面をとらえる
そして、怒涛の連打
右、左、右、左
バックステップを利かせながら
三浦との距離を微調整しながらの連打の嵐
三浦も応戦
しかし小堀は躊躇しない
三浦の強打を恐れずに危地に飛び込んでいく
小堀の左が三浦をとらえ、さらに右が顔面に叩きつけられた
三浦、ダウン
場内、大興奮
多くのファンが立ち上がって腕をつきだした
もう立てないと思われた三浦
しかし、その眼から光は消えていない
ふらつきながらなおも立ち上がってくる
ここでゴング
試合終了
勝敗は判定にゆだねられ 96-94 96-92 97-92
3-0で小堀の勝ち
5度目の防衛に成功
恒例の勝利者インタビュー
「久しぶりの10回戦で疲れてしまいました。次はもっと頑張ります 」
「(相手は)強かったです 強かったです 」
「パンチ強かったです 結構効きました 」
「もうちょっとうまく戦えるかと思ったんですけど」
「あと、この前戦った村上選手は亡くなったんですが、それに恥じることなく頑張りたいと
思います」
そして、世界戦について
「よくわからないんですけど・・・・おまかせで」
「ありがとうございました。ちわーす」
場内大爆笑
激闘の代償
控え室に戻った小堀佑介
そのダメージは深く
右眼は痛み続け安静が必要な状況
病院で精密検査を受けることに
他方、プロ初の敗戦になった三浦隆司
後楽園ホールの青い階段の踊り場で頭を抱え込んだまま
長い時間 じっとして動かなかったという
親しい記者もとても声をかけることができない
正視さえできない姿だったという
2007年9月15日 日本スーパーフェザー級タイトルマッチ10回戦
小堀佑介 対 三浦隆司
ボクシングに賭けた二人の男の拳と拳で奏でられた抒情詩
見るものを粛然とさせる魂と魂のぶつかり合いだった
クリックいただければ励みになります。人気ブログランキング
こちらもクリックいただければ励みになります。【ブログの殿堂】