内藤大助対小松則幸二冠戦前編(ナマ観戦記6.27ホール) |
見どころはもちろん、メイン
史上初の「二冠戦」
東洋太平洋フライ級王者 小松則幸
対するは、日本フライ級王者 内藤大助
負けたら、世界王座をあきらめざるを得ない男同士のサバイバルマッチ
二人の男
ドラマがある。
両者が対戦する経緯について、だ。
昨年10月10日 内藤はWBCフライ級無敗王者ポンサクレックに挑戦
かねてから、協栄ジムの亀田興起選手との対戦をアピールしていた内藤大助
陣営では、王座をとった場合、挑戦者として、亀田興起選手を指名する方針を固め
当日は、興起選手の父、史郎氏を会場の後楽園ホールに招待した。
ところが、その史郎氏の前で、内藤は7回負傷判定負け
王座奪取に失敗した
史郎氏には「6回戦レベル」と酷評される始末
その12日後、大阪府立体育館
小松則幸は、フェデリコカツバイとの東洋太平洋フライ級王座決定戦に判定勝利
そもそも、小松がこの日、奪取したこの東洋太平洋フライ級のベルト
元の持ち主は、内藤が戦いたかった亀田興起だった。
ワンミーチョーク・シンワンチャーを破って王座についた亀田興起は一転、このベルトを放棄
空位となった王座の決定戦に勝って、新王者についたのが、小松だ
その小松が、会場でマイクを持って、突如、内藤に挑戦状を叩きつけた
「この会場に、内藤さん、来ていますよね。二本のベルトを賭けて、ぼくと戦ってください」
亀田興起が捨てたベルトを拾った男が
世界の夢に破れ、亀田との世界王座をかけての対戦というビッグプランをあきらめた
ばかりの「男」に、熱く呼びかける
ところが、会場にいた傷心の日本王者内藤は、即答せず。
しかし、小松は、あきらめない。
年が明けて、本年2月13日 チャンピオンカーニバル
日本フライ級タイトルマッチ 王者内藤対挑戦者同級1位 中広大悟
この試合の勝者に向けて、「挑戦状」が、大阪から送られてきた
差出人は、小松
この試合の勝者と、二本のベルトをかけて、対戦しようというのだ。
世界戦失敗のショックが癒えず、モチベーションが上がらないまま戦った内藤
辛くも2-1の判定で王座防衛
勝ったにも関わらず、冴えない表情
一方、負けたはずの中広
その後、世界王者ポンサクレックへの挑戦が決まる
自分に負けた男が、自分の頭を飛び越えて、ポンサクレックと戦うという事態
中広陣営は、勝ったら、亀田興起との対戦も、とアピール
ますます面白くないであろう内藤の視界に
昨年10月22日から、一貫して、愚直に、対戦を要望し続けていた男の存在が入ってくる
小松則幸だ。
両者とも、世界ランカー。 ともに、ポンサクレックに、挑戦して、敗れた男同士。
また、今をときめく亀田興起選手との対戦をアピールし、袖にされた男同士。
プロ野球、Jリーグ、総合格闘技、k1・・・・・
ビッグマネーが飛び交う他のプロスポーツと全く異なるプロボクシングの世界で、懸命に
命を張って、戦ってきたもの同士
「もっと、目立ちたい、もっと、稼ぎたい、もっと、輝きたい」
そんなハングリー精神、プロ根性を持ちながらも、今一歩のところで、夢をつかみきれない
男同士
そんな二人の一戦が、ついに実現する運びに
しかし、両者にとって、この一戦
あまりにも「リスク」が大きい
内藤31歳 小松28歳
年齢から考えて
敗者はベルトを失うばかりか、事実上、世界王座挑戦の夢を絶たれる
まさに、世界王座挑戦権レース 生き残りマッチ
一方、勝者は、二本のベルトを独占し、世界王座再挑戦の夢に、大きく近づける
世界王者となった暁には、念願の亀田興起との対戦も視野に
戦いの予想
東洋太平洋フライ級王者 小松則幸 エディタウンゼントジム所属
戦績は、28戦21勝(9KO)2敗5引き分け
右ボクサータイプ
豊富なスタミナ 無類のタフネス
パンチ力は、内藤には劣るものの、パンチの回転、手数では負けない
カウンターをとるセンスは、出色 天性の「カウンターパンチャー」
日本フライ級王者 内藤大助 宮田ジム所属
戦績は、32戦28勝(19KO)2敗2引き分け
右ファイタータイプ
トリッキーなムーブ 多彩なフェイント
鋭く、大きい、思い切った踏み込みから放たれるパンチは、体重が乗って、抜群の破壊力
ただ、長年の激闘の代償か
20針以上は縫ったという目元には、古傷があり、カットしやすく、流血に結びつきやすい
小松が勝利するために、とるべき戦略はどうあるべきか。
まずは、距離
「カウンターパンチャー」であり、「ボクサータイプ」
パンチ力に劣るが、手数では負けない小松が戦うべき距離は、中間距離から、さらに外側。
内藤の大きいパンチを、見切って、空転させ、ジャブ、ワンツーを駆使して、手数と、フット
ワークで内藤の攻勢をさばきたい。
機会があれば、打ち終わり、あるいは、ガードが甘くなったタイミングで、カウンターを、とって
内藤のスタミナを消耗させて、後半に勝負をかけたい。
一方、内藤サイドとしては、詰めて、戦いたいところ。
内藤のトリッキーな動きに、小松の目がなれないうちに、前半、一気に詰めて、短期決戦を
仕掛けてくる可能性も考えられる。
スタミナ面では小松有利といわれ、内藤は目に古傷も抱えている。
内藤の攻撃が、うまくさばかれ、試合が長引けば、長引くほど小松有利、内藤不利か。
また、気がかりなポイントは、内藤のモチベーション
実はいい意味でも、また悪い意味でも「気分屋」的な性格の内藤
モチベーションがその日のボクシングの出来、不出来を大きく左右するところがある。
前回の防衛戦、対中広戦では、明らかにモチベーションに欠け、内容が悪く、判定勝ちはしたも
のの、2-1と辛勝だった。
今回の試合については、対戦を要望していたのは小松の側
内藤は、あくまでも、受け身、に回っている。
小松は、昨年10月から、訴えていた「内藤戦」が実現し、やる気にあふれているだろう。
また、地元の大阪から、敵地、東京、後楽園ホールに乗り込むという状況も、かえって、小松
の闘志を奮い立たせるかもしれない。
「ボクレポ」はパンチ力、経験で内藤がやや有利と見たが、小松のうたれ強さ、スタミナも考慮
して、接戦を予想した。
狂った歯車
ところが、結果は、6回1分38秒、内藤のTKO勝ち
1回から6回まで、一方的な内藤ペースの試合となった。
小松の歯車を狂わせたのは、1回開始わずか10秒で、放たれた内藤の左フックと思う
1回 リング中央に進む両者
内藤は、小刻みにグローブを動かし、肩をゆすって、フェイント
いかにも、打ちにいきそうな構えをみせつつ、小松の出方をうかがう
まず、内藤が、ワンツー これは当てるつもりのないパンチのよう
そのあと、内藤、左のジャブを軽く2回突き、少し、バックステップ
後ろに下がるのかと思いきや、バックステップした後ろ足を、けり足に使って、素早く
ステップイン
小さい左を繰り出したと同時に、オーバーハンドの右を放つ
これは、大振り 見切った小松は、バックステップでかわして、すかさずカウンターの右
内藤の目線は、振り下ろした右オーバーハンドのグローブの軌道にあり、うつむいた状態
小松の右が内藤のおでこにあたるが、その瞬間、うつむいた体勢から内藤の左フックが
炸裂
返しの左を放った小松と、相打ち気味のタイミングだが、内藤の左フックが小松のあごを
痛打
よろけて、かなりのダメージをこうむってしまう。
この間、開始10秒足らず
「1回でペースを完全にとられてしまった」
試合後に嘆いた小松
この一打で、内藤の強打が印象付けられ、普段は手数を誇る小松が、金縛りにあったかのように、手が出ず、試合の主導権を内藤に握られてしまう。
それにしても、興味深いのは、この10秒の間に展開された内藤の動き
その中に読み取れるフェイントの組み立てだ。
はじめの当てるつもりのないワンツー
これが、結果として、クリーンヒットの左フックへの布石になっている。
ワンツーのあとのフォローはない、と小松に印象付けるために放たれたものかもしれない
また、クリーンヒットの左フックを決める前の、ワンツー、
いったんバックステップしていることが、距離感をつかみにくくさせている上、
オーバーハンドの右を打ち抜いた後、目線を小松からそらして、下に置いている。
いかにも全力で打ったので、右腕といっしょに、頭が、動いてしまいました、といった感じに
小松としては、大振りの右、打ち終わりに内藤の体勢が崩れたと判断
右を打つが、実は、どうも、内藤には「想定内」
むしろ、小松の「カウンター」をわざと誘い込んでいたように思える。
この小松の右をおでこではねかえして、返しの左に合わせるかのように内藤は左フック一閃
まさか、このタイミングで、この左フックが放たれると思わなかったのか、小松はまともに
被弾してしまう。
パンチの組み立て自体のフェイント
ステップのフェイント
目のフェイント
二重、三重、それ以上の複雑なフェイントが1回10秒の内藤の攻めに組み込まれている
フェイント地獄
この日の内藤は、その後も冴え渡っていた。
特にさまざまなやり方で、駆使されるフェイントの数々
急に、ひざを曲げて、腰を落としたり、肩を揺らして打ち込む構えを見せたり
アッパーの打ち出しのような構えをしては、やめてみたり・・・
これが、完全に小松の手数を止めて、足を止めて、小松を受けに回らせてしまう
相手を「見てしまう」という状態に小松を追い込んでしまう。
小松の手数を封じる有効な手段の一つ
そのひとつの策が、フェイントだったのではないだろうか。
目配せひとつ、肩の小刻みな動きひとつ、ひざの屈伸ひとつで
自分はカウンターを受ける危険を冒さずに、相手の動きを封じ込めることができるのだ。
これほどまでに、内藤のフェイントが冴えていた原因は、もちろん、内藤の卓越した身体能力
ボクシングセンスもあるが、やはり、1回10秒の攻防で被弾した左のフック
あの、精神的なダメージが、内藤のパンチに対する警戒心を高めさせて、小松を、がんじがら
めの状態に追い込んでしまったのだと思う。
2回2分20秒過ぎ
ここでも、内藤のワンツーからの、左フックを小松は被弾する。
ゆったりとしたモーションから、見えやすいゆっくりしたワンツーの内藤
これをかわし、カウンターをとろうとする刹那
なんとも、打ち出しや軌道が読みにくい角度で内藤の左フックが飛んでくる
この日の小松 内藤の一発目ははずせるのだが、ワンツーのあとのフォローのブロー
これが、まったく見えていない印象だ
なぜ、見えないかというと、このスリーのブロー、カウンターへのカウンターになっていること
が多いからだ
つまり、内藤のはじめのワンツーは捨てパンチ
これで、カウンターを打たせておいて、防御が甘くなったところに、フェイントを入れつつ
狙ったパンチを打ち込むというやり方だ
3回1分20秒過ぎの内藤の左フック、クリーンヒットもこのパターン
何気なくゆっくりと右を放ち、つられて、カウンターを入れようとする小松に、左フックが入る
4回ラスト13秒の攻防も興味深い
内藤の大振りの右フックに、小松はカウンターを打つが、頭の動きでかわされ、返しの
左に、内藤の左フックがかぶせられて被弾
捨てパンチを先置きして、誘い出して、本命のパンチを打ち込む
内藤陣営には、一貫して、このような作戦があったように思える。
5回の攻防
これは、はじめから終わりまで、内藤のフェイントのオンパレード
フェイント地獄
フェイント・アウトボクシング?
肩の動き、ひざの動き、目配せ、足をいきなり前にどんと出したり、アッパーを打ち出すよう
に腕を回転させてみたり、一つ一つの内藤の動作に、過剰に小松が反応して、まったく手が
出なくなってしまう。
と、同時に、スタミナに劣ると思われる内藤が、最小限の動き、つまり、フェイント・
アウトボクシングで、巧妙に、休んでいるようにも思える。
そして、6回 一転して、攻勢に出る内藤
そして、あまりにも芸術的なダウンシーンへ
G+で録画をされた読者は、スローモーションにして、よく確認してほしい。
6回 画面の時計表示は1分50秒から(1分10秒経過)
内藤、まず右アッパーを狙う構えから、右ボディストレートを狙うフェイント
小松、後ろに下がって、見てしまう
小松、低い姿勢から、左フック
内藤、左ジャブを打ちつつ、左にステップして、小松の左フックをよける
小松、追って、左ジャブ
内藤、バックステップでかわす
ここで画面表示は1分47秒
ここから、内藤は、両手打ちに近い独特のパンチを出す
左は小松の左目のあたりを狙って 内藤の視線はそちらに向いている
しかし、この左を打ち出すとほぼ同時のタイミングで、内藤は右アッパーを繰り出している
小松は内藤の左をブロックしようとグローブを顔に
がら空きになった小松のあご
ここに、内藤の右アッパーが炸裂
小松の頭が上にはねあがる
さらに一発、左ジャブを軽く打って、ダウンシーンにつながる右フックを打ち込む内藤
しかも、この右フック、よくスローで確認してほしい
打ち出しでは、右のアッパーと見せかけている。
ここにも、フェイント・・・・
そして、明らかにアッパーの打ち出し、アッパーの軌道から、腕をひねって小松の内側に、
腰の回転も加えて右のフックをねじり込んでいるのだ。
たたらを踏むように、ぐらっと揺れて、倒れこむ小松
立ち上がった小松に、内藤は一気に連打をまとめて、レフェリーストップ
内藤が、国内フライ級最強を改めて証明し、3度目の世界挑戦に向けて、夢をつないだ。
この試合を通じて、気づいたこと。
それは、内藤選手と戦う場合は、むしろ、距離をとろうとせずに、前に出て、詰めてしまった
ほうがよい、ということだ。
内藤はパンチ力が強く、ファイタータイプなため、対戦相手は、アウトボクシングをしたがる
傾向がある。
ただ、これだけ身体能力が高く、変幻自在に動かれ、踏み込みが大きいと、実は内藤の
射程圏外に立つことは、かなり難しいのでは。
対戦相手は、距離をとったつもりでも、トリッキーに動く内藤にとっては、実は射程圏内にある
ということだ。
むしろ、内藤を破ったポンサクレックの戦法こそ、参考にすべきと思える。
ポンサクレックは、内藤のパンチや圧力を恐れずに、中に入って、距離を詰めて戦った。
思い切って中に入って、打ち合いに持ち込むと意外に勝機があるように思える。
内藤のパンチは威力はあっても、スピードや連打の回転はそうでもない。
また、打ち込む際に、かなりガードが下がる点も目に付く。
頭を付けてのインファイト、体力とパンチの回転の勝負に持ち込めば、距離が生まれたときに用いられる種類のフェイントは防げるし、目の上の古傷にダメージを与える機会も増えるだろう。
とにかく、この試合の内藤のボクシングは本当にすばらしかった。
「神がかり」といってもよいくらいのすばらしい動きだった。
二本のベルトを肩に、インタビューを受け、目を潤ませる内藤
涙がうっすらとにじみ、汗が光り、鼻に伝わる。
内藤のこの独特の横に広がった鼻・・・・・
実は、内藤の鼻は何年か前から完全につぶれてしまっている。
指で押すとぺしゃんこに。
支える骨がなく、「鼻腔がない」状態になっているからだ。
でも、この鼻は、ボクシングに真剣に取り組み、すべてを賭けて戦い続けた「男の勲章」
WBC7位 WBA7位 世界ランカーにして、東洋太平洋、日本フライ級二冠王
内藤大助 31歳
3度目の挑戦で、3本目のベルト、ボクサーとしての真の「男の勲章」を腰に巻いて
心の底から泣ける日が必ずくると信じたい。
(その他、第一試合から、第六試合は、次回後編にアップします)
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