小堀佑介苦渋のV6!後楽園ホール新春初興行前編 (1.5後楽園ホール) |
「第430回ダイナミックグローブ」 角海老宝石ジム主催
小堀佑介(角海老宝石ジム)対松崎博保(協栄ジム)の日本スーパーフェザー級タイトル
マッチを中心に
全7試合の熱闘をレポート
メインイベント 日本スーパーフェザー級タイトルマッチ10回戦
○小堀佑介( 97-96 96-95 98-93 3-0判定)松崎博保●
WBA、WBCスーパーフェザー級ともに7位、日本スーパーフェザー級チャンピオン、
角海老宝石ジムの小堀(21勝11KO2敗1分け)が同級1位、協栄ジムの松崎(17勝
8KO1敗)を3-0の判定に下し6度目の日本王座防衛に成功
戦前の大方の予想は王者小堀のKO防衛
ところが結果は二人のジャッジが1差という僅差の判定に
まずは簡単に試合経過から
2回までは小堀のペース
ていねいに左を突いて、右のボディストレートを決め先手をとる
ところが3回から松崎が反撃
左を切らさず右を当ててはバックステップ
4回 松崎、左ボディアッパーからの右フック クリーンヒット
小堀は3回以降、左リードが出ない
狙いすぎか全体に手数不足
5回 小堀の左フックがクリーンヒット
バランスを崩しぐらつく松崎
KOのチャンスと思われたが大振りの右フックはヒットせずクリンチに逃げられ詰めきれず
この回は2回に続いて3人のジャッジがすべて小堀の10-9
6回 手数にまさる松崎のペース
この回初めて3人のジャッジがそろって松崎の10-9に
6回終了時点でジャッジ浅尾、ジャッジ安部がそろって58-57で松崎
ジャッジサラサスは59-56小堀
実は6回までは2-1で勝っていたのは松崎
この日の小堀は動きが鈍い
体の切れがなく追い足に乏しい
手数も不足勝ちで振りも大きくミスブローが目立つ
ところが7回以降 再度ペースは小堀に
7.8.9回 ジャッジの支持を多く集めたのは小堀
6回までは打っては下がり、を繰り返していた松崎
しかし7回以降、バックステップ、サイドステップを繰り返し立ち位置を変えていた松崎の
足の動きが止まる
どうやら足を止めて体重の乗ったパンチを打ち込むアグレッシブな戦い方にやや
シフトチェンジ
この作戦が裏目に出た形で、いかに防御に優れた松崎でも打ち合いは小堀有利
松崎は旺盛な手数で対抗
しかし特にラウンド終盤で振るわれる小堀のビッグパンチが手数で積み上げた松崎優位の
印象を一気にひっくり返してしまう
9回終了時点で 86-86 87-87 88-84
1-0のドロー
そして最終10回
「土壇場力」を発揮して小堀が攻勢
松崎にロープを背負わせ連打
この10回は2回、5回に続いて、3人のジャッジがすべて小堀の10-9
勝敗は判定にゆだねられ
97-96 96-95 98-93 3-0で小堀の勝ち
一言でいって松崎選手の大善戦
「研究されつくしていました」
試合終了後 開口一番
控え室で王者、小堀選手が語った言葉
松崎選手陣営は、小堀佑介というボクサーを徹底的に研究
その長所を封じ込め、弱点をつく作戦を徹底的に練り上げ、それを冷静に実行してみせた
「みんなは勝てないと考えているかもしれませんが」
「ぼくは判定なら四分六でよい勝負になるのではと思っています」
試合前のある会合
自信のほどが伺える松崎選手の発言
では松崎選手陣営が考えた「小堀対策」はどのようなものだったのか
まずは右の写真①
小堀選手のオーバーハンドの右フックのシーン
松崎選手の視線はしっかりと小堀の右フックの軌道に
この右フック
2007年1月6日に行われた大之伸くま戦から小堀選手が用いているフィニッシュブロー
なのだが
いったんボディへのフェイントが入った上でボディではなく「上」に繰り出される形に
このボディへのフェイントが松崎選手には全く効かなかった
読まれてしまっていた
この右フックはことごとくかわされてしまっっていた
次に右の写真②
しっかりとした右のガードに注目してほしい
左を突くとき
あるいは右の打ち終わり
グローブををしっかりとあごにくっつけてガードを固めている
これは明らかに、小堀選手の左フックへの対応だろう
小堀選手はワンツーのあと、返しの左フックが実戦でスムーズに出るボクサー
「ワンツーフック」が攻撃の主軸
この左フックをまともにもらわないように松崎選手は右のガードをしっかりと固めていた
さらに写真③
頭を沈み込ませるディフェンス
完全に下を向いてしゃがみこみに近い姿勢をとってみせる
小堀選手の側から見ると
打つ場所がなくなってしまう
もちろんアッパーで起こすというやり方もあるのだが
小堀選手のブローはストレート系中心
アッパーはあまり実戦では使われない
さらにこのディフェンスの応用
写真④
松崎選手は右オーバーハンド、あるいは左フックを打つ際に
打ちながら頭の位置を大きく動かして
深く沈みこませてしまう
ちょうど打ち終わりが写真③と似た形に
打つところがなくなってしまう体勢
カウンターのセンスに秀でた小堀選手に、打ち終わり、パンチを合わされないための工夫と
思われる
しかし、このディフェンスには欠点も
なにしろしゃがみこみに近い形になるまで
頭を沈み込ませるのだからバランスが崩れやすい
この体勢のままでは軽いパンチをもらったり、体で押されただけでぐらついてしまう
5回 たたらを踏むまでにバランスを崩したのはそのため
ダウン寸前に見えたが、果たして本当に小堀選手のパンチが効いていたのか
単に体勢が不安定で、そこにパンチを受けたのでバランスが崩れただけなのか
松崎選手は試合後、自らの「ブログ」で
「効いたパンチはなかった」と述べている
さらに松崎選手が上手かったのは距離のとり方
「小堀の距離で戦わせてもらえなかった」
試合直後の小堀選手の師匠、田中栄民トレーナーの述懐
小堀選手の得意な距離は「ミドルレンジ」
中間距離での打ち合いには無類の強さを発揮するボクサーだ
素早いステップインはなくベタ足で「待って打つ」タイプ
いいかえれば追い足にやや欠ける点があり、ロングの距離は得意ではない
また「クロスレンジ」も得意とはいえない
小堀選手は相手が接近してくるとグローブで押し出す動きをよく用いる
くっつかれるのを嫌がる傾向があり、パンチもクロスレンジでのコンビネーションは中間距離
でのそれに比べ、いまひとつ滑らかさに欠ける
松崎選手は小堀選手の得意な「中間距離」での打ち合いは避けて
くっつくか(クロスレンジ)
離れるか(ロングレンジ)
に徹していた
松崎選手は打った後、すぐにバックステップしてしまう(写真⑤参照)
ワンツーのツーを打ち出す場面
もうバックステップの準備に入っているかのようで、重心は後ろに残した形に
これではいわゆる「手打ち」になってしまって、体重の乗ったパンチは打ち込めないが
そもそも松崎選手陣営の作戦の重点は「判定で勝つ」ことに置かれていた
さらに小堀選手が前に出て追いにかかると今度は一気に距離をつぶしてクリンチに
決して中間距離での打ち合いには応じない
①打ったら離れる
②くっつくか離れるかに徹し中間距離にいない
これを松崎選手は冷静沈着に実行してみせた
さらに小堀選手のペースを狂わせたのは松崎選手の「左」
小堀選手はどちらかといえば「待って打つ」カウンターパンチャー
自分から仕掛けて試合の主導権を握るタイプのボクサーではない
典型的にそのことが確認できるのが小堀選手の試合における左リードジャブの手数
これが明らかに少ない
ジャブを突いて相手のリズムを狂わせてペースを握る
これはボクシングの基本中の基本なのだが
これを松崎選手にやられてしまっていた(写真⑦参照)
ボクサーとしてのトータルのスケールでは小堀選手がはるかに松崎選手を凌駕している
はず
しかし、「ジャバー」としてのパフォーマンスでは
この試合に関する限り松崎選手のほうが優れていた
実は2回までは、小堀選手もていねいに「左」を突いていた
左の突き合いに負けていなかった
ところが3回以降、めっきり「左」の手数が減って
一発のカウンターでのKO狙いの「雑念」に支配されて
大振りの強引なパンチが目立ちミスブローを連発してしまう
おそらく2回までの攻防を通じて
松崎選手の実力を独りよがりに見切ってしまって
緊張感、集中力を著しく欠いてしまったのだと思う
「パンチは手打ち気味で威力も無い」
「自分の一発が当たればいつでも倒せる」
こういった希望的観測、過度の楽観主義に毒されて
松崎選手の出方を「見すぎてしまって」左の手数が激減
全体としてなんとも注意散漫な「雑な」ボクシングに
結果として試合の主導権を奪われる形になってしまった
この試合、「ペース支配」という面では3回以降は実は松崎選手が優位にあった
攻防は小堀選手ではなく松崎選手の「土俵」で行われていたといええる
で、あるにも関わらず
それでもなお最終的に、有効打の「質」一発のパンチ力、さらにプロボクサーとしての
底力をジャッジにアピールし、勝利をもぎとったのは小堀佑介だった
相手の土俵で戦いながらもなお最終的に勝利を奪う
これは付け焼刃の強さではなく
本当に強い「ホンモノの」ボクサーでなければできないことだと思う
予想を完全に裏切る苦しい試合となった6度目の防衛戦
王者、小堀の「底力」を示すことができたと同時に
「世界のベルト」を目指すうえで多くの課題があることも浮き彫りとなった
自らを「進化」させる能力
失敗に学び、よりレベルアップした水準に自らのボクシングを進化させる能力
いいかえれば「進化力」あるいは「自己変革能力」
これもボクサーの「強さ」の重要な部分を構成するファクターだと思う
この一戦を経て今後
世界のベルトを目指すべく
より一層集中して戦い続けなければならない現段階において
小堀佑介という「才能」に問われているものはまさにこのファクター
「進化力」 「自己変革能力」ではないだろうか
言い換えれば伸びしろの大きさ、ボクサーとしての器の大きさ
ここまでのボクサーなのか
それともさらに強くなるボクサーなのか
その答えは小堀佑介自身が
これからのボクシング人生で自らの拳を通して、あるいは生き様を通じて
導き出していくよりないだろう
「こうなったらぜひ世界のベルトを巻いてください」
試合直後
自らの悔しい思いをおくびにも出さずそういっていただいた
好敵手、松崎選手の期待を同じプロボクサーとして、無にしてはならないはずだ
頑張れ!小堀!
(以下 後編に続く)
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